2011年04月05日

被災地におけるツツガ虫病について

国立感染症研究所より、被災地におけるツツガ虫病についての注意喚起
がなされております(今月1日付)。
http://idsc.nih.go.jp/earthquake2011/RiskAssessment/
20110401tutugamusi.html

東北地方はそろそろ春のツツガムシ病の発生時期に入っております。ツツガムシ病は、現代社会にあっては林業や農作業、ハイキングや釣りなどでごく稀に感染する程度でしたが、昔と違って最近のツツガムシ病は太平洋側の地域でも見られるようになっており、また、被災地では野外 作業の時間が多くなるため、感染する機会が増えそうです。

ツツガムシ病は、ツツガムシという微小なダニの幼虫の一部がツツガムシ病リケッチアを保有しており、そのダニが皮膚に吸着した際にリケッチアが感染して発症し、時には急激に死亡に至りうる疾患です。しかし、適切に予防すれば発症を防げますし、的確な治療を行なえば完全に治癒しますので、まずはツツガムシ病の存在を認識することが重要でしょう。

予防については、ツツガムシ病リケッチアはヒトからヒトへは感染しませんので、ダニの吸着を避けることが最も重要です。ツツガムシ幼虫は草むらや土におりますが、目に見える大きさではなく、また皮膚に付着しても自覚できません。野外作業、特に郊外や山地での作業の際は、皮膚を露出させて草や土がつかないよう長袖、長ズボン、長靴を着用しましょう。また、帽子やジャケット、タオルなどを不用意に草むらや地面に置かないようにします。アウトドアや登山で使うDEET配合の虫除けスプレーはツツガムシの付着予防にも有効とされています。また、ツツガムシは皮膚に付着してもすぐには吸着(咬着)しないので、野外作業後の入浴や着衣の洗濯も有効です。

治療については医療機関であればたいてい使用しているテトラサイクリン系の抗生物質が有効ですが、「つつが無きようお過ごしください」という言葉が死語になりつつある現代社会にあっては、医師にとってなかなか診断が難しい疾患となっています。典型例では野外活動後1〜2週間前後に高熱、全身の紅斑、ダニ刺し口、リンパ腺腫脹が認められます。ダニ刺し口は、必ずしも皮膚露出部にあるとは限りません。受診時の注意として、野外活動後、特に草むらでの作業後の高熱、紅斑が問診
のポイントでしょう。的確な治療で完全に治癒しますが、診断が遅れると血液障害などをきたし致命的になる場合が多いので、まずは疾患の存在を認識することが重要です。なお、診断を確定した医師は、保健所へ患者発生の届け出が必要となります。

日本登山医学会評議員 梶谷博(いちいクリニック)
posted by 事務局 at 11:56| Comment(0) | 感染症

2011年03月23日

感染症データベースについて

増山先生
登山医学会事務局殿

初めてメールさし上げます。
加古川医療センターの伊藤と申します。今回の震災に際し、元同僚の高田氏より下記の情報をいただきました。差し支えない範囲で少しでも現地に行く医療者に知って顧みていただけるとありがたい、ということでの情報提供です。当MLの趣旨に沿うようでしたら、御広報いただけると助かります。
以下、転送です↓
WHO 西太平洋地区事務所でインターンをしております高田と申します。(同メールを重複して受信される方はご容赦ください。)
東日本大震災で被害にあわれた方々に心よりお見舞い申し上げます。また、現地で活動されている皆様のご健康と安全を心よりお祈り申
し上げます。さて、WHOでは、被災地での感染症のモニタリングを国立感染症研究所感染情報センターと連携して行っております。感染症の動向を早期に察知し、適切な医療支援が適切な場所で行われるよう情報を発信する形で支援をしたいと考えております。被災地で診療活動を行っている先生方、これから支援に向かわれる皆様、感染症症例がありましたら下記URLを経由してご一報いただければ幸いです。http://www.syndromic-surveillance.net/hinanjo/index.html 
↑以上、転送です。

登山医学会関係者で現場に赴かれる方は少なくないと思いますので、もし余裕があれば、お手数ですがご協力いただけると幸いです。
目の前の患者を今すぐ救うことにはつながらないかもしれませんが、今後必ず感染の問題はさらに顕在化してくると思われますので...。なお、電話で彼に確認しましたが、入力のためには事前にメールでの申し込みを要します(敷居が高い...)。有事の際でもここはフリーアクセスに できないそうです。私も微力ながら来月、県立病院の救護班として現地に入る予定です。
兵庫県立加古川医療センター
救命救急センター
伊藤 岳 拝
posted by 事務局 at 23:39| Comment(3) | 感染症

2011年03月19日

地震被災地で注意する水・感染症

登山医学会理事増山茂医師、堀井昌子医師からの提言

3月11日に東北地方を中心に発生した巨大地震は未曽有の災害となった。震災後に発生する可能性のある感染症について簡単に説明する。
地震や津波の直後は、外傷が問題となる。倒壊流出した家屋や車両などによる。この傷口から侵入する感染症にまずは注意が必要である。こうした感染症は傷をこまめに消毒すること、抗菌薬で対処することで治療可能なものが多いが、「汚れた水」しか得られないことも多いはずだ。完全な消毒は難しいという前提で対処しよう。

「汚れた水」が明らかに生活排水を含んでいると思われるときは煮沸の手段がない限り飲まない。緊急避難的に化学的な消毒の方法があり、手法としては、水1リットルに塩素剤(次亜塩素酸ナトリウム6%の製品。「ピューラックス」)を3滴入れ、よくかきまぜる。30分ほど放置してから使う。消毒した水はその旨表示して飲料のみに使用する。ノロウイルスなどの感染性胃腸炎に対する注意も大切です。

また、心配すべきは破傷風でありワクチンによる予防を要する。大きな怪我を負った被災者は、救出後早めに医療機関で処置を受けていただきたい。

震災後1週間程度してから発生するのが、インフルエンザや感冒などの呼吸器感染症である。インフルエンザについては3月になり流行が終息しつつあるが、避難所のように集団生活する場所では新たな流行が発生する。とくに被災者は栄養状態の悪化などで抵抗力が低下していることが多く、呼吸器感染症にかかりやすい状態になっている。避難所では手洗いやウガイを励行するとともに、マスクの着
用も必要に応じて実施すべきである。

この時期に発生するもう一つの感染症として経口感染症がある。日本のように衛生環境が整備された国であっても、震災後には飲料水や食品が汚染されるなどして、食中毒や下痢症が多くなる。とくにこの時期はノロウイルスが流行しやすい季節であり、水や食品は加熱したものを摂取した方がいいだろう。避難所で飲食物を提供する自治体なども、この点には注意していただきたい。

震災後数カ月を経過した時点で流行する感染症として、発展途上国では蚊に媒介されるマラリアやデング熱がある。これは、水溜りで蚊が繁殖することに由来する。ただし、日本国内では元々患者が少ないため、こうした昆虫媒介の感染症が震災後に増加する可能性は低いと考える。なお、ゴミ処理の停滞でネズミの数が増えると、それに媒介されるレプトスピラ症やハンタウイルス感染症などが発生する可能性もある。いずれにしても、震災後は衛生環境の整備に力を注ぐとともに、年単位にわたりに感染症の発生を監視する必要があるだろう。
posted by 事務局 at 05:40| Comment(0) | 感染症